メゾソプラノでお願いします

それは今から約１０年前のことだった。

オイラは、とあるレストランウェディングのＰＡ＋音出しを担当していた。
レストランウェディングとは、その名のとおり結婚式場ではなく、
レストランを貸切利用して結婚披露宴パーティを行うモノであり、
当然、そこには十分な音響機材がないため、ＰＡ屋が必要な機材すべてを設営することになる。

この日もオイラはコンパクトスピーカー４発、ワイヤレスマイク２波、有線マイク２本、
そしてＢＧＭ用にカセット、ＣＤ、ＭＤを各２セットずつセットアップし、
考え得るＢＧＭソースに対応できる体制を整えて最終ミーティング＆リハーサルに備えていた。

通常は、司会者が 「新郎新婦のご入場です。入口にご注目下さいっ！」 の発声をキッカケに
入場曲をポン出しするのが 「よくあるパターン」 なのだが、
この日は新郎の友人が８人編成のブラスバンドを引き連れてきており、
入場・中座・余興・退場のＢＧＭはすべてブラスバンド演奏で対応することとなっていた。
当然、オイラの仕事は減るワケで、かなり気楽な思いでミーティングに参加していた。

プランナー 「それでは最終ミーティングを始めます。よろしくお願いします。」

司会 「まず入場なんですけど、私が『新郎新婦のご入場です』と言ったら、
　　　ブラスバンドの演奏を開始してもらえますか？」

バンマス 「わかりました。」

司会 「ただ、先ほど、試しにブラバン演奏をバックに喋ってみたら、
　　　演奏の音が大きすぎて何を喋っているかさっぱり聴き取れなかったので、
　　　すみませんが、私が喋り出したら少し音量を下げて・・・
　　　メゾソプラノで演奏してもらってもいいですか？」

オレ 「 （心の中で）・・・それを言うならピアニッシモだろっ！」

バンマス 「 （少し無言状態のあと）・・・わかりました」

司会 「それではよろしくお願いします！」

後日、オイラの仲間うちで 「司会が喋り始めたらＢＧＭを下げること」 を
「メゾソプラノでお願いっ！」 と呼ぶようになったことは言うまでもない。

ちなみにそのレストランウェディングは、
「メゾソプラノ」 効果でブラバンが演奏途中で吹き出すんじゃないか、が心配されたが、
結局、リハも本番も無事終了し、司会者は メゾソプラノ が功を奏したとご満悦で帰路に着いたのであった。

みなさん、馴れない専門用語を使うときは十分気をつけましょう。

ちゃんちゃん。

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