カール・ゴッチ(その4)

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(昨日からの続き~「猪木は死ぬか!」より転載)

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いつの間にか夜になっていた。
深まりゆく夜がメーンエベントの近いことを教える。
黄昏の中にいる記者はひどくのんびりしているが、
それが終わって7時半を過ぎると妙につきつめた顔をする。

猪木 ― ゴッチ戦まで後三試合はある筈だが、席を立ってカウンターへ急いだ。
ゴッチは、トレーニングを終えて休んでいた。

見ると、肩にタオルが掛けてある。
リーガンやクマリと何やら談笑していた.

ゴッチが言った。

「いや、こうしないと肩が冷えるのでね」

試合前のレスラーからこんな言葉を聞く事は少ない。
ゴッチらしい気の配り様だったが、それ程、神経を使う事でもあるまいとも思えた。


山内と小山のトレードが成立し、山内が大阪にやって来た日だった。
山内は甲子園球場を見やっていたが、何を思ったか、スタスタとセンターの守備位置まで歩いて行った。
かがみ込んだ山内の手に砂が握られていた。
それを、山内はパーっと上空へ放り投げ、じっと流れを見ていたのである。

「いやね、風の方向を知りたくてね」

そんな事か、オーバーな。
私は笑った。

まさに不覚だった。

どんな小さな事にも精一杯ぶつかって消化しなければ、本当の仕事は出来ない。
それに気が付いたのは何年も後だった。

それに思い至らない人は、結局、そこそこに仕事はこなすが、その道の第一人者にはなれない。

私はフッと、この日の山内を、パッと砂を上空へ投げた後ろ姿を思い出した。

〈これがあるから、この人は第一人者になれた〉

「コンディションはどうですかね」

「ベストだ。この上ない仕上がりに持ってきた。
もう、これ以上は今の私には無理だ。
今夜はTVマッチ。第一回放送の記念すべき試合だ。
イノキにしてやれる、これが精一杯の私の好意だよ」

つい今しがた、若手レスラーが、

「ゴッチの足の張りを見た? 凄かったね」

そう話していたばかりだった。
それを言ったのが藤波である。

あの男、やはりただ者ではなかった。
“仕事熱心" だったのだ。
それが十年後の今日、藤波というレスラーに自分を仕上げた。

この世界にあって、あれだけ体の小さな男が・・・。
ホーガンと藤波の違いがここにあった。
ホーガンはなるべくしてのし上がり、藤波は血の滲む努力と仕事熱心さで今日の地位へ這い上がってきた・・・。

ゴッチの体にはタルミがあった。
しかし、足の筋肉は盛り上がっている。
藤波が言った通りだった。指で弾いたら、ビーンと音がするだろう、と思った。

日本組の控え室では、猪木が左手に貼っていたバンソウコウをはがしていた。

「オレだってベストですよ」

ゴッチの話をしたところ、猪木は黙って聞いていた。
その後で、猪木が言ったのがこれだった。

左手の打撲症は完全に治ってはいない。
しかし、それがゴッチヘの礼儀だ、と一言わんばかりの猪木だった。

「いま108キロ」

旗揚げ時(三月六日)のウェートも108キロだった。
だが、その時と今とでは違う。絞りに絞った108キロであった。
同じウェートであるから同じ状態だと考えるのはナンセンスである。
猪木の体が、あの時と今とでは違う、と語りかけてきた。
それだけに、猪木の目の光り方は鋭い。

その鋭い目付きを猪木はリングへ持ち込んだ。
レフェリーのテーズがチラと猪木の目を見た。

そこに居たのは猪木、ゴッチ、テーズ。役者は揃っていたが、どういうわけか地味な闘いになった。


(To Be Continued)




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