カール・ゴッチ(その5)

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(昨日からの続き~「猪木は死ぬか!」より転載)

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やっぱり大技のラッシュなどなかった。
技を仕掛ける事も出来ない。
どちらもカットしてしまい容易に攻めさせないのだ。

その攻防の見事さに、私は舌を巻いた。

寝技で押さえ込むにしても、下手な手だと見ていればすぐ分かる。
相手がはねのけなかったからといって、その寝技がビシッと型にはまって隙がないとは言えないのだ。
下手同士のレスリングは、派手な場外乱闘でもやらない限り、
どんな手を使っても退屈この上ないものとなる。

場外乱闘は、この意味でレスラーの救済機関であった。
ただ、この事に気付いているレスラーとそうでないレスラーの場外乱闘の意味合いは違う。
それに気付いていないレスラーのそれは、やはり上っ面だけで、のしかかってくる重みを伴った色合いに欠けた。

時間が経つにつれて脳裏から凄さが薄れて行く場外乱闘は、みんなこれなのだ。
同じ様に椅子で殴り机に相手をぶつけても、
後になって生きてくる場外戦には、しっかりした経営者の手腕が必ず顔をのぞかせている。

この夜の猪木 ― ゴッチ戦は、こうした救済機関無用の息詰まる攻防に終始した。

見た目にはつまらない。山もなければ谷もなかった。
荒野には風すら吹いていない様に見えた。
だが、今になって、谷が、山が、荒野に吹いていた強い風が感じられる。

何もかも、あれだけ激しかった若い日の恋でさえ、時が経てば風化して行く。
その時の流れに逆行し、色合いを強めるものこそ、真の生き様だったと言えるのだ。


そうでないもの ― それをプロレス界に置き換えて見ると、その時だけの名勝負が如何に多いかが分かる。

猪木 ― ゴッチ戦は、日を追うにつれて、いろいろな光り方をして見せた。
その上、光量を増していったのである。

いぶし銀の値打ちがそこにある。
買った時は金ピカで虚栄心を満足させてはくれるが、
一年も経つと嫌味だけしか感じなくなる腕時計とは違った。

見てくれのいい、名勝負ですよといった顔付きの試合を私が嫌うのはこのためだ。

どんな形にしろ、心に響いてくるものがあるかないかでそれは決まる。
プロレスほど主観的な勝負はない。

テレビカメラが回っているというのに、派手な見せ場は一つもなかった。
強いて挙げれば、ゴッチが使ったセコ・バックブリーカー位なものであった。

あとは腕を取り足を攻めての攻防である。
猪木は必死になってブリッジで返した。

ゴッチが教えたプロレスの基本を、今、猪木は生かし切った・・・ そんな快い響きがあった。
あの試合で猪木が見せたブリッジによる攻防こそ、猪木プロレスの原型であり発展した姿である。

足、腕、両肩、頭・・・と猪木は、これ以上はないという見事な返し技を見せた。
ゴッチも同じであった。

東西きってのテクニシャン同士が闘っているのだ。
TVに敬意を表する何かがあってしかるべきだった。
それがひとつもなかった事に、私はホッと思いを抱く。

山あり谷ありの見てくれのだけの名勝負であれば、カレンダーが綺麗に消してくれた事だろう。

思い出そうとしても猪木の顔すら浮かんでは来ない・・・そういった希薄さの中へ私を追いやっただろうから。
私の猪木の思い出は一つ減っていたわけである。

早い話・ゴッチの攻めにもそれがあった。

ゴッチはトー・ホールドで猪木の足を攻めた。
だが、遠くから締め上げる事をしなかった。
強引にギュッと押し込んで、自分の体を密着させようとはかった。

これでは見た目が悪い。
ドリー・ファンク・ジュニアのように遠くからねじり上げてこそ形が決まるのだが、ゴッチはそれをしなかった。
何故ならゴッチは猪木のバネを知っていたからである。
同時にフトコロに飛び込まれた時のディフェンスが弱いことも知っていた。
だから見た目の良くない足攻めを二度も繰り返した。

ところが三度目の足攻めに出た際、今度は猪木が強引に、しかも巧妙に距離を取った。
ゴッチはこれはいかんと体を寄せようとしたが、猪木は10センチばかりの間隔の中へ足を折り曲げた。
そうしておいてゴッチの顔面を蹴ったのである。

プロレスとは、ぼーっと見ていたのでは宝の持ち腐れとなる。
じーっと目を凝らして見ていないと名勝負も鰯の頭もないことになる。

“仕事熱心” とキャリアは違う。
じーっと見ていない人は、何十年プロレスを見たところで進歩などしない。

レスラーにしても同じだ。
プロと名のつくファンは、それこそ我を忘れて試合に見入る。
その鋭い目に恐怖した事は何回もある。

〈この目に対抗するためには―。この目の上を行くには、この目以上の目を必要とする〉

単純な話だが、私がそれに気付いたのは、うかつにも十年前である。
力道山時代、日プロ時代には考えもしなかった世界に気付いたのがこの頃であった・・・。


(To Be Continued)





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